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「トレードオフ」はどこに行った?: (人材戦略調査中間報告2/3)

「ヒト、モノ、カネ」という話をしたが、戦略の根本はトレードオフである。限られた資源でより大きな相手、あるいはグローバル企業との競争に勝ち抜くためには「すること」だけでなく「しないこと」を明確にしなくてはならない。

残念ながら「人的資本経営」がもてはやされる中、ほぼ「すること」しかあがらない。確かに、いろいろな面で遅れているから、これもしなくてはならない、あれも変えなくてはいけないということはあるだろう。しかし、本来は少なくとも2つのトレードオフがなくてはならないはずだ。

1つは「ヒトの中」でのトレードオフ。つまり、だれにどれだけ投資をするか(しないか)である。HRではtalent managementという分野があるが、「社員全員が実力を発揮できるような投資」か「一部のトップ人材への投資」が議論の1つである。マッキンゼーは「95%の価値を生み出す上位5%にフォーカスするべきだ」と言い切る。

もう1つ、より重要なトレードオフは「経営全体から見た」トレードオフである。ヒトに投資をするということは、そのために例えばITやR&Dへの投資を抑えるということに他ならない。さらに言えば、ヒトへの投資はすぐに結果が出るものではない。会社全体の中長期的な投資をどう考えていくのか、これなしに「なにしろ人的資本に投資しよう」ではいつか来た成果主義の二の舞になる。

今回の調査ではこの点に関してはあまり踏み込めていない。ただ、分析を進める中で明らかになってきたのは「トップは乗り気でも、現場は苦労している」実態である。感情もあればバイアスもあるヒトを相手にしてトレードオフを進めるのは難しい。しかし、難しいから差がつく。