Q&Aセッションには「流行り言葉ですが」と恐縮しながら、パーパス経営について聞いてみたいというEMBA生もいた。
「何を言うかでなく、何をするか」「踏み絵だ」と言う冨山氏の答えは当然と言えば当然。理念だろうがパーパスだろうが、言っているだけで社員に入っていくわけはない。他社だって同じようなことを言っている。J&Jのタイラノールのリコールの様に、トップの決断や行動、「ここまでやるのか」と見せつけられて初めて社員は腹落ちする。
Netflixは「どの会社も素晴らしい企業理念を掲げるが、多くはあいまいでだれも気にしていないことが多い。その会社が本当にどのような理念を持っているかは、誰が評価され、誰がクビになるかで分かる」と明言する。
2か月ほど前、NetflixでDave Chappelleの猛毒コメディショーが差別的だとトランスジェンダーの社員が反対し、ついには内部情報をリークしてクビになった(ちなみに、ストリーミングで1作品の売上や利益貢献を測るのはめっちゃ難しいが、「イカゲーム」が何千億円とか言われているのは、このリークされた情報から試算したといわれている)。ショーは大ヒットで取り下げもしない。「世界を楽しませる(enterntain the world」を標榜するのであれば、こうした反対意見や問題が起きるのは覚悟の上だというのである。そして、そもそもこうしたことが起きるのも信頼と透明性を重んじて、すべての社員が外に出たら大騒ぎになる情報にアクセスできるばかりか、自由な発言をできる土壌があるからである。
パーパス経営は両刃の剣である。情報の透明性は当然の前提であり、本当に進めるのであれば、嫌われたり、炎上したりすることがどこかで起きることを覚悟したほうがいい。というか、そうでなければパーパス経営ではないと思う。「世の中の半分に嫌われていないのなら、差別化しているとは言えない」(パタゴニアの創業者シュイナード)のだから。みんなが喜びそうなことを言うだけなら経営も政治も採点も簡単です。
付録:それぞれの「パーパス」、どこの会社かわかりますか?(出所:日経電子版)