ソウルは1回お休みして、7月11日日経一面の記事から平均の罠について考えたい。この記事には「年収を上げた企業の成長は著しい」というタイトルで、プライム上場企業平均と年収上昇10%以上の企業の2019年から2022年の増収率(平均と思われる)を比べている。
これは相関関係であってタイトルで示唆するような因果関係ではないのでは(むしろ逆に増収企業が年収を上げたのでは?)とか、わざわざコロナの時期を取るのはなぜだろうとか、業界による違いを考慮しなくていいのか(14面にあるランキングでは50社中6社が海運会社!)など、ツッコミどころ満載だが、「平均」の難しさについてここでは考えたい。実は、この「平均」も単純ではないからである。
この記事では明記されていないが「単純平均」と「加重平均」では全く異なった結果が出る。売上100億の会社とトヨタのように40兆円の会社では例えば10%の増収の価値は全く違うはずだが、同じ「1社」とすると意味が変わって来る。年収計算の従業員数も同じこと。さらに言えば、近年「従業員」(おそらくここでは正社員を意味しているのだろうが)の定義も難しい。極端に言えば、賃金の低い契約社員を増やすことで、数を少なくした正社員の年収を「水増し」することも可能である。
平均のもう1つの難しさは、極端な企業に引っ張られることである。プライム上場なのである程度はコントロールできているものの、(加重平均でない場合)一部の急成長企業や大赤字企業が全体像を歪めかねない。さらに言えば、日本の出生率は1.3だが、1.3人子供を産む人はいない。結構たくさんのゼロと2、3人以上で分かれているのではないかと思われる。要は分布を見ないとミスリーディングということ。面白いことに、翌日の記事では中間値が使われている。
数値で証拠を示すことは重要だ。ただ、定量的であるというだけで「なんとなく」正しいと思ってしまう罠も知る必要がある。せっかくいい問題提起をしていながら、手法のせいで価値が下がることは残念だ。そういえば、マッキンゼーの有名なダイバーシティに関する調査もやり玉に挙がっている。
「学者はすぐ重箱の隅をつつく」と言われるかもしれない。しかし「科学的」「エビデンスベース」というのはそういうことだと叩き込まれた私にとっては、どうしても見逃せないのである。