前々回は戦略の中核となるべきトレードオフの重要性にふれた。経営人材を念頭に置いたトレードオフ、つまり投資度合いおよび中期的な問題意識に関する今回の調査結果をざっくり言えば
教育・育成 >> 活用 > 採用 >> 離職防止
である。これは多くの企業でも納得感があるのではと思う。しかし、人材版伊藤レポートで言う「鍵となる人材の獲得」とは教育だけのことなんだろうか?実際20年以上前に出版されて世界的ベストセラーになった『War for Talent』は「本書の目的は優秀なマネジャーを引きつけ、育て、意欲を引き出し、維持することである」と明示されているにもかかわらずタイトルの日本語訳は『人材育成競争』となっている。
思うに、教育・育成は「やった感」がある(この点、組織変更と似ている)。新たに課された有価証券報告書の開示義務も「人材育成方針」だけである。しかし、教育・育成は目的ではなく手段であり、活用、ひいては会社の業績や競争力の向上こそが目的のはずである。その意味で、本当に必要な資源配分とトレードオフはできているのだろうか、そしてそれは今後どう見直されていくのだろうか。
離職防止に対する問題意識が非常に低いことも気にかかる。あたりまえだが優秀な人ほど市場価値は高い。せっかく投資をした人材が(外資系の)競合にもっていかれる経験をしながら「報酬制度は難しい」なんて言っていないだろうか。そして、報酬制度(つまり人事部)だけの問題だろうか?
ここまで書いて、経営人材に関してもう1つ重要なポイントに触れていないことに気づいた。続きは番外編で。