かんぽ生命の異常な保険販売など企業の不祥事が次々に明るみに出るにつれて、「ノルマのプレッシャーが社員を不正に走らせた」と、メガバンクを含め「ノルマ廃止」が打ち出されています。「顧客に対してより寄添った営業ができるようになった」とコメントする銀行員のニュース(!)も見ました。
では、そもそもこれまでなぜノルマを課していたのか?そこにあるのは「高いノルマを課せば正直に頑張る」というよく言えば性善説、悪く言えばお気楽な前提です。社長が若いころはそうだったのかもしれません。さらに言えば、その時代には単に個人が頑張るとか肉食だとかいうだけでなく、周りを含め切磋琢磨しよう、あんな上司のようになりたいという雰囲気があったのだと思います。それが今はあるのか?
だいぶ前に、ある外資系金融機関の偉い人から「うちは日本に全部で800人くらいいるが、そのうち200人はIT関係だ」と聞いたことがあります。「うちの社員は優秀で業績を上げるためには何でもやりかねないから、ITの檻でしっかりと囲っておく」というのです。前提が違います。
ノルマがなくて社員や組織の成長があるのかというより大きな疑問もあります。ノルマ、目標、ゴール、様々な言葉が使われますが、ストレッチ目標が成長を促すのは50年前からの経営学の定説です(例、Locke, 1968)。つまり、問題はノルマではなく、「ノルマの適切さ」なのです。野球のノックでは、ぎりぎりの取れないところに打つのが重要だといわれます。Gunosy創業者福島さんの「目標設定を的確に行うことがマネジメントの本質」という指摘はケースにも書きました。その意味で、ノルマの廃止というのは、「いろいろ言われるし、面倒だからもういいや!」とマネジメントの役割を投げ出したように見えます。「これまでも適当にやっていただけ」ならともかく。
ノルマ廃止を宣言した会社がそのあたりをどう考えているのかよくわかりません。1つ言えるのは、「顧客満足度指標」などと名前を変えて遅かれ早かれ戻ってくるだろうということです。その時は、前提と適切さが担保されているでしょうか?
良い夏休みを!