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直感と夫婦の話

日本経済新聞夕刊の連載(2019年6月5日)で、文楽人形遣いの吉田玉助氏がご両親のことを書いておられました。私が目を留めたのは「父を見初めたのは(8歳年上の)母だったらしい」というくだりです。

私の周りを見渡しても「妻が夫よりも年上」の夫婦をよく見かけるようになりました。統計を取っているわけではないので偏っているかもしれませんが、それなりにうまくいっているように見えます。

少し前まで(いまだにそうかもしれませんが)「夫が年上」であることが「常識」のように考えられていた気がします。それは、例えば結婚すれば女性が家に入るのが「常識」だったので(「常識」って何だ?というのはまた別のテーマです)、夫がある程度の年収がないと苦しいといった事情があったでしょう。随分前に読んだ吉行淳之介氏のエッセイには「女のほうが成熟しているので、男が4、5歳は上でないとつりあわない」といった指摘もありました。

私の妻も2つ年上ですが、彼女のプラクティカルさに何度もうならされます。例えば子供をERに連れて行く「決断」もそうでしたし、ニューヨークに住んでいたころに私が出張中に車が壊れて見ず知らずの修理工場に彼女一人で車を持ち込んだりしたのもそうですが、私が理屈にこだわったり「そこまでやらなくても」と思うようなことに対して「直感的」に答えを出して行動に移すのです。そして、「直感」といいながらも、言われて見ればそうだよな、本当はどこかでそう思っていたけど、いやだからいろいろ理由を探していたんだなと思わされることが多いのです。

女性のほうが感情的といわれる一方、(理屈とかプライドとかでなく)結果にこだわることができるように思われます。それは女性が子供を産むという力が備わっているからなのか、それとも男性が会社勤めの中で知らないうちにひらめになっているのかはわかりません。必ずしも年齢とは関係ないはずですが、何年かの差が妻の背中を押すのかもしれません。

「考えてもわからないときは、自分の気持ちに従うこと」は宮崎あおい扮する天璋院が大切にしていた母の教えです。「日本に帰るとものすごく頭が発達している人たちが多いなあと思う。でも心が停止状態なのに、どんどん頭に情報を入れていくから、なんだかとても機械のようになっているように見える。…それがやがて『主観が持てない』自分自身になってしまう。」というのは、バングラデュからがんばってマザーハウスを経営する山口絵里子さんです。宮間あやさんも「数字だけで評価が決められでもしたらたまらない」「直感が大事」と6月11日の日経朝刊スポーツ欄に書かれています(この連載を読んで、井村、宇津木の次は彼女しかいないと個人的に思っています)。

男と女といったステレオタイプには抵抗がある私ですが、この点に関しては「負けた」と思わざるを得ません。さらに言えば、妻が年上である夫婦の場合はそうした女性の「女性の直感力」が発揮されやすい一方、理屈が優先される企業の中ではなかなか生かしきれていない場合が多いように見えます。そして、自分も考えて見れば、難しい問題や決断に関して、「なんだかんだいって、これだよな」という答えは結構心のどこかにあることに気づきます。