昨年12月に開かれたビジネスコンテスト委員長杯KBSxGunosyの優勝チーム4人とシリコンバレーを訪れました(正式な報告はKBSホームページをご覧ください)。私は今年で三度目です。
今回は医療機器を提案したチームで、メンバーに心臓外科医がいらしたこともあり、(天井中にセンサーがついている) Amazon Go や (ロゴが慶應とそっくり?な) Google Xだけでなくスタンフォードのメディカルスクールや関係病院、Fogarty Institute of Innovationなどを訪問し、さらにはそこに来ていらっしゃる日本人の研究者・医師の方と意見交換をする機会が持てました。
色々あったなかで、自分としてより強く感じたのは多くの企業が新規事業に取り組むときの基準、「市場規模」と「リスク」についてでした。起業家的なマインドセットを持った医師達が新たな医療機器などの提案をしても、この2つの壁で企業が二の足を踏むことが多いというのです。
実際、過去の調査を見ても「市場の規模、成長性」を新規事業の最重要項目とする企業は多いですし、VCも「スケール」を強調します。心臓外科の様な分野では当然マーケットは限られており、せいぜい100億、大企業からすれば全く魅力がないという話です(そもそも国内市場しか見ていないのでは?という指摘もありました)。
ただ、じゃあ1兆、あるいは数千億に育ちそうな事業ってどこにあるの?というと、ぶっちゃけないわけです。実際、市場規模や成長性は有望でも、そうした市場には多くの競合がなだれ込みますから(例えば中国のシェア自転車企業の様に)全く儲からない。だから苦労しているんだ、という訳ですが、そろそろそうした「ホームランで逆転思考」をやめたらどうかと思うのです。実際、「スケールだ」と言っている元起業家VCだって、自分の事業がそこまで大きくなるとはやってみるまでわからなかったのではないでしょうか?私の専門のM&Aの世界も、大規模M&Aの失敗率は非常に高く、中小のM&Aを繰り返す「Serial M&A」企業の方がはるかに成功しています。ホームランに頭がいっぱいでそもそも打席にも立たない、たまにたつと大振りばかり…そんな比喩がそのまま当てはまります。打席に立つことで見えてくるものは多いはずなのですが、そもそもそうしたチャンスを放棄していないでしょうか。
もう1つはリスクです。当たり前ですが、リスクとリターンは基本的に比例します(そうでなければ、誰かがもうやっているはずです)。だとすれば、リスクを避けるのではなく(それは100メートルを5秒で走れという様なことなので)、どうマネジするかを考えなくてはなりません。「リスクがあるから、高そうだからやらない」というのは「リターンがいらない」と同義です。医療機器の場合、人命が即絡むので「高リスク」と見えますが、「よく考えれば、自動車部品の方がはるかに事故や人命に関わることが多いのでは?」というのが研究者や医師達の指摘でした。
大人は若者に対して「デカいことをやろう」とけしかけるのですが、「デカさ」が「社会的な意義の大きさ」ではなく「見た目の市場の大きさ」に入れ替わっていることが多いと思うのです(もちろん無関係ではありません)。そして、リスクをマネジする最大の武器はお金でもブランドでも計画でもなく、担当者の強い気持ちであることが忘れられている様に見えます。
「こうしたらもっと患者さんが救えるのでは」「こんな機器があったら医師の負担が減るのでは」そうした熱い思いに対して、ビジネススクールの教員として何ができるのか、そして企業の「新規事業」の基準とはどうあるべきなのか、改めて考えることになった3泊5日でした。普段あまりお付き合いのない方と特別な場所で話す機会は貴重です。
ちなみに、Google Xの受付に人がわさわさいたので、なんだろうと聞いたら、2人は受付、3人はセキュリティでした。