BLOG

アマゾンがシアーズを破産させた?

1886年創業、アメリカを代表する小売企業のシアーズが10月15日ついに破産を申請しました。クラスをとってくれた皆さんはよく知っていると思いますが、私はアメリカ時代から20年以上にわたってこの企業を追いかけ、アメリカではHBSのケース(2002年)、日本では自分で訳したものを使って「成功企業がなぜ失敗するか」についての議論をしています。

今回、多くのマスコミの論調はアマゾンあるいはECの波に乗れなかったことが原因だといいます。それは表面的な見方だと私は思います。シアーズが実質破産したのは2度目で、1度目はWalmartに負けた2005年で、「ウォーレン・バフェット2世」といわれたファンドマネジャーエドワード・ランパート氏に買収され同じくWalmartに負けて破産したKmartと合併します。

最終的に大株主かつCEOとして再建できず、ファンドの評判もがた落ちになってしまったランパート氏のコメントとして「自分は早くからECが主流になると気づいていたのに、シアーズは変われなかった」「自分の考えを経営陣が理解できず、孤独だった」とWall Street Journal (10月17日)は伝えています。

彼が実際に行ったのはECへの投資もあったのですが、店舗への投資を控え、在庫も欠品が出るほど減らすことでした。つまり「やりやすい範囲で、よりECに近づける」ことでした。当然ですが、店舗の魅力はなくなり、従業員のモチベーションは下がり、顧客も店舗に来なくなる。ますます経費削減をする…という悪循環です。買い物の面白さがない店舗に来る顧客はいませんし、高い家賃も正当化できるわけはありません。過去の大富豪もあっという間に大貧民に成り下がる、ビジネスそして顧客の苛烈さを甘く見たのでしょう。

アマゾンに負けたのは間違いありませんが、その本質は、現場が抵抗することを「言い訳」にした中途半端な戦略にあったと思うのです。実はビジネスモデルを変えなくてはならない大企業によく見られます。LCC(特にサウスウェスト)にまったく勝てなかった大手航空会社、Netflixに席巻されたブロックバスター、PCメーカー、電機メーカーなどなど例はいくらでもあげられます。ビジネスモデルはそのままで、小手先の投資で何とかなると考えた結果です。よく「ゲームのルールが変わった」という言い方がされますが、それは、例えばこれまで9人でやっていた野球が8人や7人になるということではなく、野球をやっていたと思っていたら世の中はサッカーになっていたということが多いのです。

戦略で必要な「強み」を考える基準は、「過去強かった」「競争相手にない」ではありません。世の中の流れ、顧客のニーズを考えたときに、顧客が(潜在的に)求める価値を生み出す源泉となりうるかどうかです。そのためには顧客を絞ったり、規模の縮小が必要なこともあります。戦略が間違っていたらPDCAで直せばいいのですが、この出発点を間違えると、「いらないものを効率的に作る」ことになります。新しい時代のビジネスモデル、そしてそこの中核になる強みをはっきりさせることは簡単ではありません。これまで野球をやってきたわけですからサッカーのことがわからなくても当然です。だからといって、わかりやすくかつ昔の栄光をよく知る経営陣に受けの良い「過去の強み」「他社にない」ことが戦略の出発点になっているとすれば黄信号です。社内では精緻華麗な計画ができていても、はたからみると「なんで?」みたいな話がよくあると、Gunosyの福島さんも指摘されていました。

ちなみに、10月1日に以下の記述を含む論説委員長の署名記事が新聞に載りました(記事の全体の主旨はよかったのに残念!)。どこでこんなことを聞いてきたのか知りませんが、かわいそうです。だれか気づかなかったのでしょうか?それとも、気づいても言えなかったのでしょうか?「過去」を批判する必要はありませんが、最も大切なのは今、そしてこれからであることを改めて気づかせてくれます。