「会社のためと思ってやったのに、不祥事の責任を取らされた」という話は最近よく聞きますが、身近にも、例えば「部下のためにわざと厳しくしたつもりが、パワハラといわれた」あるいは「子供のためを思って一生懸命やったのに、子供は反発した」といった経験をお持ちの方は多いと思います。これがベストだと疑いもしないのですが、予想外の反応で「我に返る」のです。「なぜ、こんな大切なことに気づかなかったんだろう」「なんてバカだったんだろう」と思うわけですが、手遅れです。裏口入学に手を染めた政府高官も、もしかしたら「よかれ」と思っていたのかもしれません。
6月末のAIBで改めて思ったのはそんなことでした。「我に返る」ことの重要性を特に意識させられたのは2016年にHaier(ハイアール)傘下になったGE Appliances のKevin Nolan President & CEOの話からでした。白物家電を中心にしたGE Appliancesは「コア事業」でないとGEからはすでに切り離されていたのですが、Haierの下で2桁成長を続けていることについての説明を聞いて考えた下記3つの点を3回に分け書きます。ちなみに、写真の中央が、Kevin Nolan President & CEOで、手前の大きな背中はKBS浅川先生のINSEAD時代の師匠、Yves Doz教授です。
- M&Aで最も重要なのは、お互いをよく見て、理解をすること
- 創業者の目線は、サラリーマン社長の目線と違う
- 「経験」って何だろう?
1については、「あたりまえ」のことではあります。が、新オーナーの下でのインテグレーションの話になったとき、成長ゴールを含めた「共通点」の重要性を強調されたのが印象的でした。100年を越す伝統を持ちアメリカを代表するGEと1984年創業で中国の新興企業であるHaierの組み合わせに対して、「違い」ばかりが喧伝されることに飽き飽きしたという感じでした。もちろん違いはたくさんあったでしょう。
しかし、「違う」という先入観はチャンスもコストも見えなくします(はやりの「ダイバーシティ」も同じです)。本当に大切なことは、曇りのない目と心で注意深く観察し、何が同じで何が違うか、違う理由は何か、をはっきりさせることです。共通点を土台にし、違いを分かった上で、それぞれのよさを活かすことがM&A成功のカギだからです。ソニーの盛田昭夫氏が「学歴無用論」を唱えた結果、より本質的に人の評価をしなくてはならなくなり、かえって現場は混乱したという話も、知らないうちにステレオタイプに頼って楽をする(結果として機会損失を生む)人間組織の特徴をよく表しています(次回に続く)。