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もう一つの地球、インド

ゼミ長の海老原です。先日、インドでの4か月にわたるインターンシップを終えて帰国しました。毎日のようにカレーを食していた日々が懐かしいと思える今日この頃。今回は滞在中の気づきや出来事についてご紹介します。

 今回のインターンシップの目的の一つに、「新興国の保険ビジネスの現状を見てみたい」がありました。市場が伸びていると多方面で言われているインドですが、果たして保険事業はどうなのか、最も顧客に近い現場では何が起こっているのかを見たくてインドに飛び込んできました。

現地の保険に関わる文献に目を通すなどして少しずつインドに対するイメージが固まってきた2ヶ月目、ようやく現場に行く機会を得ました。場所は勤務先の本社があるハイデラバードから西に遠く離れたマハラシュトラのとある農村部。夜行列車に8時間揺られてたどり着いた場所の景色は、草原に線路と道路だけ。ここで私は4日間にわたって8つの村を訪問しました。結果として分かったことを一つご紹介します。それは日本にはない難しさでした。

 ここではマイクロインシュアランス(低所得者の人々向けに設計された保険)を購入する人々の暮らしぶりや、事業のオペレーションに触れることができました。現地の人とのコミュニケーションの場面である違和感に気づきました。インド人同士なのだから直接話せばいいものを、本社から私とともに同行してくれたインド人のメンターは現地の人々と直接かかわろうとしません。会話は必ず現地に在住するもう一人の社員を通じて行われました。まるで通訳を介して話すように。気になったのでメンターの彼に質問してみると、現地の人々が話す言葉が分からないとのこと。実は同じインド人でも私のメンターが話す言葉と、現地の人たちが話す言葉が違ったのです。日本でも地域が変われば方言も変わりますが、インドではその比ではなく、文字も文法も異なっていて隣の地域の言葉が分からないとのことでした。

「車で30分走れば言葉と文化が変わる」

メンター曰く、これがインドだと。その言葉の違いは日本の方言の比ではなく、隣の州の言葉が全く理解できないほどで、困ったことに国の第一言語とされているヒンディー語も実際は必ずしも絶対的共通言語ではないようです。それでも各ローカル言語を話す人口は総じて多く、日本の人口を上回る規模で使われている言語もみられました。地球の中にもう一つ地球があるような、そんな多様性がみられる国、インド。ここでは現地のパートナーとの協力体制がないとビジネスは進まないと実感しました。

 そんな気づきの数週間後、インド人もかつて経験したことのない不便な事態に巻き込まれました。11月初旬のことでしたが、首相の一声によって高額紙幣(500&1000ルピー紙幣)が無効化されました。持っている高額紙幣を紙きれにしたくなければ、年末までにこの高額紙幣を銀行口座に預けるか、新しく発行する新紙幣(新500 or 2000ルピー紙幣)に窓口で交換しろとの内容でした。この高額紙幣無効化の目的は、現金社会にメスを入れること、具体的には現金で蓄えられているとされるブラックマネーと納税逃れのために現金保管されている資金をあぶり出すこと、そしてキャッシュレス化の促進でした。発表から無効になるまで、たったの4時間。SNS上では風刺画(紙幣をヤギの餌として扱う画像等)が飛び交い、翌朝から町中の店舗には「旧高額紙幣、受け付けません」の張り紙が。そして発表から2日後には銀行の窓口やATMに新紙幣を求める長蛇の列が。(私はというと、運の悪いことに手元に高額紙幣がたくさん(日本円にすると1万円近く)ありました…。現地の銀行口座を持たない私は期日までに旧紙幣を新紙幣に換えるしか紙きれ化回避の術がなく、日本でいうところの日本銀行にあたるReserve Bank of Indiaに2度出向き、何とか事なきを得ました。)

 当初不便な面だけしか見えなかったこの政策を「とんでもないことだ」と決めつけていた私でしたが、よくよく考えてみるとこの国はすごいと思えてきました。なにより、よく実行までこぎつけたなということ。インド全土が現金を求めて混乱することは容易に予想できたはずです。実際、新紙幣を発行する銀行も紙幣の準備が追い付かず、一人が交換できる紙幣の枚数に制限を設けたほどの混乱ぶりです。この政策実行の噂があれば、実行阻止に向けて行動を起こす人が多数いたでしょう。実際に実行された事実から、側近以外に話が漏れることがなかったことが伺えます。徹底した情報管理で実行までこじつけたことは見事だったのではないでしょうか。(それにしてもいまだにATMには行列ができているそうで、インパクトの大きさはかなりのものです。)

以上諸々述べてきましたが、インターンシップで海外に行けたことは私の人生の中でも3本の指に入る程大きなイベントで、現地の人とコミュニケーションしながら現地での生活のヒントを得ていく過程は、成長材料としてとても貴重だったと思います。多くの人は、インドでの生活を想像してあまりいい印象を持たないのではないでしょうか。生活環境面では衛生環境が整っていない、大気汚染がひどい。ビジネスにおいては時間にルーズな部分があったり。確かにそれはありましたが、日本との違いの全てをおもしろくとらえながら生活ができたと感じています。インド、いいですよ。お薦めです。